様々な葬儀の形式の中で、最もシンプルで、時間的にも費用的にもミニマムな形が「直葬(ちょくそう)」、あるいは「火葬式」と呼ばれるお別れです。これは、通夜や告別式といった宗教的な儀式を一切行わず、ごく限られた近親者のみで、火葬をもって故人様をお見送りするスタイルです。そのタイムスケジュールは、非常にコンパクトで、数時間で全てが完了します。まず、日本の法律では、死後二十四時間が経過しないと火葬を行うことはできません。そのため、ご逝去後、ご遺体はご自宅か、葬儀社の専用安置施設で、最低でも一日安置されることになります。この間、ご家族は故人様と静かな時間を過ごすことができます。そして、火葬の当日、ご遺族や数名の近親者は、火葬場の予約時間に合わせて、安置場所に集合します。ここで、故人様を棺に納める「納棺の儀」を執り行います。ご遺体を清め、旅支度を整え、時には好きだった服を着せてあげることもあります。そして、思い出の品々や花を棺に納め、最後の対面をします。この納棺の時間が、直葬における最も重要なお別れの儀式と言えるでしょう。準備が整うと、棺は寝台車タイプの霊柩車に乗せられ、「出棺」となります。ご遺族も、自家用車やタクシーで火葬場へと向かいます。火葬場に到着すると、棺は火葬炉の前に安置されます。ここが、故人様と対面できる本当に最後の時間です。多くの火葬場では、この炉前で短いお別れの時間が設けられており、宗教者を呼ばない場合でも、参列者全員で焼香をしたり、故人様に最後の言葉をかけたりすることができます。もし、菩提寺の僧侶などにお願いしている場合は、この炉前で五分から十分程度の短い読経をあげていただきます。そして、棺が火葬炉に納められ、火葬が始まります。火葬にかかる時間は、一時間から二時間程度です。その間、ご遺族は専用の控室で静かに待機します。火葬が終わると、係員の案内に従い、全員で収骨室へ移動し、ご遺骨を骨壷に納める「収骨」の儀式を行います。この収骨をもって、直葬のすべての儀式は終了となります。会食の席なども設けないため、火葬場でそのまま解散となります。ご逝去からお見送りまで、儀式に要する時間はわずか数時間。しかし、その短い時間の中に、故人への深い感謝と愛情を凝縮させた、尊いお別れの形がここにあります。